~変わらずにいること~ 〈IW3716〉

IWCの中でも一番クラシカルであり人気のあるポルトギーゼ。
2020年というキリの良い今年に発表された新生ポルトギーゼ・クロノグラフをご紹介します。

ポルトギーゼ・クロノグラフが今年の新作発表でムーヴメントを一新した理由の一つとして、「ETA2020年問題」があげられます。
今までスイスの各メーカーはミドルレンジの時計のほとんどをETA社が供給するエボーシュ(未完成のムーブメント)に頼ってきました。(Cal.7750をはじめCal.2892・Cal.2824など有名なキャリバーは数知れず。。。)
しかし、2020年1月1日にスウォッチグループがエボーシュの供給を停止しました。
2002年7月の当初発表は「2010年問題」でしたが、色々あって2020年までに伸びはしたものの、各メーカーは自社ムーヴメントの開発を余儀なくされました。
IWCもその影響を受け、一旦はETA7750からジェネリックブランドのセリタSW500を採用しなくてはならなくなりました。
精密さと品質基準に厳しいIWCとしては苦肉の策だったのではと推察されます。
その混乱の中で、2018年に自社ムーヴメント搭載の「ポルトギーゼ150周年モデル」が発表され、次いで今年レギュラーモデルとしてIW3716が発表に至ったのです。
皆さんご存知とは思いますが、今回ご紹介するポルトギーゼシリーズの始まりは、ポルトガルの商人からの「ステンレス製でマリンクロノメーター級の精度の腕時計を」といったオーダーからでした。
1939年に薄型ポケットウォッチCal.74をベースに製作され発表されました。
初代ポルトギーゼRef.325の発表からは、約80年が経ちます。

《ポルトギーゼRef.325》
ポルトギーゼ・クロノグラフの発表は1998年です。
今回のブログでは前作IW3714と新型IW3716の違いや事の経緯が説明出来たらと思います。
まずケース径ですが40.9mm⇒41mmとほとんど違いはありません。
厚みは12.5mm⇒13mmと0.5mm増していますが、腕に乗せた時の違和感はありませんでした。

ある程度の力を加えて「バチッ」と留める3つ折れのバックルから、両(観音)開きのバックルに大幅変更されています。

バックルが両開きタイプになったことで、腕が細い方でもバックルが手首の中央に来やすい構造になっています。そのため装着感はよりよく感じると思います。
またバックルカバーも「IWC」ロゴが自社ムーブメントの変更に伴い「Probus Scafusia」にグレードアップしています。
ムーヴメントに関しては大きな変更がありました。
前作までは他社のミドルレンジでも多用されていたETA(バルジュー)7750(部品総数272個)でしたが、自社製キャリバー69355(部品総数194個)が搭載されています。➡理由については後ほど説明いたします。
パワーリザーブは44時間から46時間と微増です。

しかし、文字盤には大きな仕様変更は見られませんでした。
シンプルなアラビア数字のアップライトインデックス。(実は作業工程が多く、プリントに比べとても手間がかかっています)、伝統のレイルウェイ分目盛り(シェマンドフェール)、目盛りの読み取りの邪魔をしないリーフ針(若干丸みが付いたかも)、とポルトギーゼのデザインコードとしてはブレていません。

スケルトンのケースバックからは、クロノグラフ動作を制御するコラムホイールの動きを十分に堪能する事が出来ます。

クロノグラフのプッシュボタンの押し心地は旧モデルとさほど変わりは無いと感じました。
一般的にコラムホイールはカム式に比べ軽い力で作動するものが多いですが、Cal.69355はしっかりと硬さを感じます。
理由は押した力をそのまま伝える、コラムホイールを押して回転させる構造だからです。
他のコラムホイール式ではコラムホイールの歯を爪で引っ掛け、テコの原理を使って引っ張ることで回転させます。そのため比較的軽い力での動作が可能なのです。
IWCがなぜ大きな力を必要とする方式をとったのかは、ムーヴメントの設計と私的にはドイツの質実剛健なものづくりに影響されているからではないかと推察しています。
ETA Cal.7750のガチッと押す感じが嫌いではない方は多いと思います。
ポルトギーゼの意匠を踏襲し、ダイヤルやケースのデザインを変えないのと同様にムーヴメントの変更によって使い心地が変わってしまうのを避けたのではないでしょうか。
IWCのモットーである「Probus Scafusia」「シャフハウゼンの優秀な、そして徹底したクラフツマンシップ」は作る人のみならず、使う人の感覚にもこだわっているのだろうと勝手に感心をしています。
フランス寄りのジュネーヴやバーゼル、ヌーシャテルと比べドイツの国境に近いスイス北端のシャフハウゼンの地はドイツのものづくりの影響が色濃く反映されています。
IWCの時計はいわゆるスイスの他の地域の様な「華やかな芸術作品」と言うより、実用的な「工芸品(クラフツ)」であると言えるでしょう。
ぜひ店頭で実機をご覧くださいませ。
IWC ポルトギーゼコレクション



